元農林水産事務次官、熊沢英昭容疑者(76)が東京・練馬区の自宅で同居する無職の息子・英一郎氏(44)を刺殺した事件は、日本社会が抱える「引きこもり問題」を露わにした。
内閣府は引きこもりを「自室や家からほとんど出ない状態に加えて、趣味の用事や近所のコンビニ以外に外出しない状態が6か月以上続く場合」と定義する。同府の2018年の調査によると、自宅に半年以上引きこもっている40~64歳は全国に61万3000人。うち76.6%が男性だ。
「働かない」「結婚しない」「家から出ない」人が増加する中、こうした子供を抱える親は日々、「この先自分たちがいなくなったら、この子はどうやって生活するのか」と思い悩む。複雑な要因を抱える引きこもり問題に、どう対処すればいいのか。引きこもりの問題に詳しい介護・福祉ジャーナリストの高室成幸氏は次のように指摘する。
「引きこもりの多くは、外に出たいと思っているのに出られなくて苦しんでいます。でも本人はその状況をどう打開していいかわからず、親の些細なアドバイスなどにも反発しがちです。家族間で解決させようと無理に努力するのではなく、専門の支援センターなど外部に相談することです」
だが、注意したいのは、近年悪質な「自立支援ビジネス」が横行していることだ。引きこもりを20年以上取材するジャーナリストの池上正樹氏がいう。
「引きこもりを世間から隠そうとして、安易にネットで施設を探すと悪徳業者に引っかかる怖れがあります。彼らは『このままでは息子さんが大変なことになります』『未来はお金で買えます』などと言葉巧みに親の心情に付け入り、支援プログラムなどないようなところに入所させ、数百万円単位の高額請求を吹っ掛けます」
実際、3か月の入所で合計570万円を請求された例もある。この施設では利用者はアパートの一室に押し込まれて、食事も満足に与えられなかった。池上氏が警鐘を鳴らす。
「一連の事件で悩む親心に付け込んで悪徳業者が暗躍する怖れがある。この件で最も情報を持っているのは各地の『ひきこもり家族会』なので、そこで情報収集しながらアドバイスを聞き、最も適したやり方を慎重に選ぶことが大事です」
いきなり外部の人に相談するのはハードルが高いという人は、“距離のある”知人に相談してみるとよい。
「近所の人や会社の同僚など普段から親しくしている人には打ち明けにくいかもしれません。遠くに住んでいる親戚に聞いてもらったり、行政や支援団体の窓口では匿名でも相談できるので利用してみるといいでしょう」(高室氏)
働かず、結婚せず、家から出なくても、「生きたくない」とは思っていない。そんな子に刃物ではなく、救いの手を差し伸べるのが、老いても親の務めだろう。
※週刊ポスト2019年6月21日号
情報収集して役所なりちゃんとした組織に相談して悪徳業者にあわないように気をつけましょう
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